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泊原発判決の報道をみて 弁護士白井劍

泊原発判決の報道をみて 弁護士白井劍

 

〈札幌地裁の差し止め判決〉

2022年5月31日、札幌地方裁判所(谷口哲也裁判長)は泊(とまり)原発の運転差止め請求を認める判決を出した。泊原発はいま稼働していない。1~3号機が福島原発事故後に定期点検のために順次停止し現在まで停止している。北海道電力は再稼働を目指していた。その再稼働を許さないとする判決である。

 

〈福島原発事故を受けて提起された訴訟〉

2011年3月11日、東日本大震災の巨大地震により、東京電力福島第一原発の各号機は緊急停止した。原子炉が停止しても核燃料は大量の崩壊熱を発生し続ける。水1トンを数分で蒸発させてしまう熱量である。ただちに電気つかって冷却せねばならない。地震から約50分後、巨大津波が原発施設に押し寄せた。地下にあった電源盤や非常用発電機はことごとく水没した。電源は致命的に水に弱い。福島第一原発は全電源喪失に陥り、冷却機能を失って原子炉のメルトダウンにいたった。そして、水素爆発による放射性物質の大量放出となった。

この福島での原発事故をうけて、同年11月、北海道泊原発の運転差し止めを求める訴訟が札幌地裁に提起された。約1200名の原告のうち原発施設から半径30キロ圏内に居住する44名について判決は差し止め請求を認めた。

津波によって施設の安全機能が損なわれれば福島第一原発事故の二の舞になる。原発の設置基準では、原発施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波に対して、安全機能が保持されることが求められている。泊原発の敷地は海抜10メートルである。敷地には高さ6・5メートルの既存の防潮堤がある。海面からは16・5メートルの高さになる。しかし、この防潮堤の地盤が地震の際の液状化で地盤沈下する危険性が指摘されている。この危険性を否定する北電の主張は根拠不充分である。このように事実認定をしたうえで、判決は、「津波防護機能を保持できる防護施設は存在せず、設置基準の安全性を充たしていない」と結論づけた。

 

〈津波対策の不備を理由とした判決は初めて〉

福島原発事故後に言い渡された判決のなかで原発の運転を認めなかったのは今回が4件目である。過去3件は、関西電力大飯原発の運転差し止め判決と設置許可取り消し判決、そして日本原電東海第2原発の運転差し止め判決である。地震、火山のリスク、そして避難計画の不備が理由とされた。

津波対策の不備を理由に運転差し止めを命じた判決は今回が初めてだそうだ。意外であった。現に、福島原発事故は津波対策の不備が原因で起きた。その教訓からすれば、その点に着目する判決がもっとあってもおかしくない。

日本列島は、北米プレート・ユーラシアプレート・太平洋プレート・フィリピン海プレートの4つのプレートに載る。地震も津波も頻発する。原発施設は海岸に建っている。そのように大づかみに言えば、全国のどの原発施設も、地震対策と津波対策がよほど万全でなければ安全に稼働することなどできないはずである。

 

〈被害の広範性と甚大性〉

万が一の事故がひとたび起これば被害は甚大である。現に2011年の原発事故によって人の住めない土地となってしまったところがたくさんある。大勢の住民たちが事故から11年経った現在でも、ふるさとに帰還するめどがたたないまま避難生活を余儀なくされている。その被害は原発施設の近隣だけにとどまらない。わたしが担当する「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」では、福島第一原発から20キロ圏外にある浪江町津島地区の住民たちが地域まるごと汚染されて住めなくなってしまっている。被害は広範に及ぶのである。再稼働を検討するなら、万一の事故が起きた場合の被害の広範性、甚大性に注目しなければならない。

今回の泊原発判決は至極まっとうな判断である。この判決が今後、各地の同種訴訟によい影響をおよぼすことを期待したい。(以上)