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BTS~わたしの好きなふたつの歌 弁護士白井劍

BTS~わたしの好きなふたつの歌 弁護士白井劍

〈BTSはごぞんじでしょう〉

BTSをごぞんじだろうか。ああ知っているよ、とおっしゃるかもしれない。でも英字略語はむずかしい。ビットコインのことではない(それは、BTC)。大手放送局の名前でもない(それは、TBS)。もちろん大手旅行会社でもない(それは、JTB)。

BTSは7人組のK‐POPボーイズグループである。デビューは2013年。韓国国内だけでなくグローバルに活動を展開していて、世界各国に膨大なファンをもつ。いまや、韓国のというより、世界のBTSである。もっとも、2022年6月から活動を休止した。メンバーのうち3名が兵役に就くためだった。残る4名は個人として活動をつづけてきた。その4名も今月2023年12月兵役に就いた。2025年からグループとしての活動再開をめざす。かつて兵役による活動停止に熱烈なファンから異論が唱えられ議論が沸騰した。議論は韓国国会にまで及んだ。日本でも報道されたよ、だからBTSは知っているよとあなたはおっしゃるだろう。

〈国連本部でのパフォーマンス〉

 たびたびマスコミに取り上げられた。2018年11月にはメンバーのひとりが着ていたTシャツが原爆投下を正当化する図案だったことが物議を醸した。2022年5月にはワシントンのホワイトハウスを訪問。バイデン大統領と面談し、アジア系アメリカ人へのヘイトクライム問題について意見交換した。

国連本部でのスピーチとパフォーマンスはとくに大きく報道された。2021年9月20日のことだ。国連総会の「SDGsモーメント」で韓国大統領特使としてスピーチし、名曲「Permission to Dance」のパフォーマンスを披露した。わたし自身はその後、曲を聴き映像を目にしてファンになった。けっして熱狂的ファンではない。ただ好きなだけだ。それでもファンのひとりである。とりわけ好きな歌が2つある。ひとつは、この名曲「Permission to Dance」である。「ダンスを踊るのに許可は要らない」と明るく軽快なメロディーにのって活気あふれるダンスを展開し、自由と平和を希求する思いをうたう。反戦歌ではない。でも、ダンスで見せる手話の動作は平和を意味している。ユーチューブの動画には、さまざまな肌の色の老若男女が登場し、笑顔でダンスを踊る。自由と平和を希求する思いが世界じゅうに拡がっていくことを願うメッセージが伝わってくる。

〈平和を希求する真摯な思い〉

 あなたは疑問を呈するかもしれない。物議を醸した原爆Tシャツは、ファンからの贈り物をただファッションとして着用しただけと伝えられる。平和もまた軽薄なファッションにすぎないのではないか、と。

しかし、分断国家が抱える戦争の不安のなかに、かれらは生きている。兵役によって20歳代の貴重な18カ月が奪われる。現にそのためにグループの活動を停止せざるをえない苦悩をかかえた。平和と自由の重みを実感として受けとめているに違いない。その思いには真摯なものがある。そう思うのである。

〈BTSのアンパンマン〉

 先ほど好きな歌が2つあると言った。もうひとつは「Anpanman」。日本アニメのあのアンパンマンである。

「Anpanman」はおだやかな曲調をもつ。ダンスも温かみを感じさせる。飛行を表現する動きがある。自分の頭をとりはずして子どもに与えるように見える場面もある。かれらは幼い頃アンパンマンのアニメを見て育ったそうだ。アンパンマンは飢える子どもたちを看過できない。自分の頭をとってアンパンを分け与える。ところが頭をとると力をうしなってしまう。世界一弱いヒーローだ。いつも傷だらけで、体力も筋肉もない。それでもそっと寄り添ってくれる。一生懸命がんばるアンパンマンのように自分たちはなりたい。特別な才能はないけれど、自分たちの音楽でだれかの力になりたい。そういう思いをうたった歌だと、メンバーのひとりがインタビューに答えて語っている。

〈平和をもたらす力〉

2023年のこの一年も凄惨で理不尽なニュースばかりだった。ロシア軍がウクライナに侵攻して始まった戦争が終わらない。ガザではイスラエル軍がパレスチナの一般市民を大量虐殺している。国内でも理不尽は多い。沖縄では辺野古の海の軟弱地盤に無謀にも基地建設をする強行姿勢を政府は崩さない。裁判所も政府の横暴に加担する。オスプレイの問題でも、有機フッ素化合物の基地外流出問題でも、政府や東京都の米軍に対する姿勢は及び腰だ。

軍事力は人権を侵害し憎しみをもたらす。けっして平和をもたらしはしない。戦争を回避し平和をもたらすものは、武力ではなく言葉の力である。暴力ではなく理性である。そういう固い信念が日本国憲法の背骨を貫いている。同様の信念が前記2つの歌の底流に流れているように思える。そういう思いがかれらの歌をとおして世界じゅうに広がっていくことを願う。2025年にBTSが活動を再開することを楽しみにしたい。(以上)