2024.1.14
37年前から、「いつかは鳥海山」(2236m)と憧れ続けてきた。1日目の登り。地図上のコースタイムで4時間40分中3時間の地点にある七五三掛(しめかけ)の分岐。昼食と休憩を含めて、出発からすでに5時間半近くたっていた。頂上直下の大物忌神社の山小屋まで明るいうちになるべく早く着きたい。下る千蛇谷コースか、登る外輪山コースか。どちらを選ぶか。分岐からいったん下る千蛇谷コース。せっかく登ったのに降りるのは、ちょっと損をした気がするが、地図上のコースタイムは1時間40分。1.5倍で2時間30分、休憩含めて3時間くらいで登れるだろう(と甘い計算)。外輪山コースのコースタイムは1時間55分。2時間として1.5倍で3時間、休憩含めて3時間半。しかも、30人もの団体さんが外輪山コースから七五三掛分岐に降りきるのを待ってから出発しなければならない。時刻は13時を過ぎていた。早く到着できる千蛇谷コースを選んだ。
写真は、七五三掛から千蛇谷コースを写したもの。手前につづら折りの下り道。雪渓の左側に細い登山道が見える。
さっそく急なつづら折りの下り。道の幅は肩幅より狭く感じる(感じただけだろう)。慎重に慎重に。あ、はしご。緊張したが無事降りきる。途中で休憩。秋田県側が見える。山の斜面に濃い緑の森が続いている。しかし、写真を撮る余裕はない。スマホを持って構えたらバランスを失いそうだ。そろそろと急な下り坂を下りていく。気をつけていたつもりだったのに、途中、土の道の上にがらがらの小石があるところでずるーっとすべって尻餅をつき、その拍子に、道の左側に並んでささっている、てっぺんが「?」の形に丸くまげられた鉄筋(丸い部分にロープが通されている)に左脇の下の肋骨を打ち付けた。やってしまったぁ。肋骨を打撲したようだ。肺にダメージはないか。呼吸はできる。「遭難」の言葉が頭をよぎる。ヘリコプターで救助されるニュースでよく聴く。ネット情報によると1時間で50~60万円くらいかかるらしいと知り、念のためヘリコプター費用300万円が出る2泊3日の単発の保険に入ってきた。立ち上がってみると、左肋骨部分に痛みは残ったが歩けそうだ。気を取り直して、さらに慎重に下った。
下りきったところに、小さい谷川がながれていた。手を入れてみると冷たい!上流側に少しだけ雪渓が残っている。今年は猛暑のため小さいのかな。飛び石をたどって谷川を渡る。頂上の方を見上げる。U字型の谷だ。右側は急な岩の壁で最上部は外輪山の尾根になっている。左側は頂上に続く斜面で緑に覆われている。ここからずっと登り。頂上手前で胸突き八丁があるとのこと。さぁ登るぞ!
しばらくは緩やかで楽そうに見えた。低山の緩やかな登山道の土の道なら、景色を眺めながらハイキング気分である。しかしだ。ここの道は両側は低い灌木や草で覆われていても道は岩だらけである。今回、久しぶりに岩だらけの道を歩いてみると、一歩一歩ぐらついていないか、足をのせてすべらないか、いちいち確認するようにして歩かなければならなかった。さかのぼって考えるに、若い頃は、岩の斜面が思った角度と違っていても、あるいは、ちょっと岩がぐらついても、瞬時に足が岩の形に応じてバランスをとるよう反応していたのだ。この歳になって、その反射力も筋力も落ちているということなのだろう。
とにかく登らなければならない。ちょっと悲壮な思いで登っていった。すると、右上の方から何やら楽しそうな話し声が聞こえる。右上は外輪山コースの登山道である。距離にして150mか200mくらいだろうか、小さく数人の人が見える。普通なら聞こえない距離だろう。特に大声を出しているわけではなく普通の会話だ。話しの内容までは聴き取れない。空気が澄んでいるから? 不思議だった。あっちの道は楽しそうだなぁ。
もう8月の終わりで標高も高いので、高山植物の花はあまり見られなかったが、ところどころ、名前のわからない花が夏の名残に咲いていた。
ときどき休憩して後をふりかえると、秋田県側象潟の日本海が見える。確実に高くなっていることを確認できてほっとする。写真は二男撮影。中央に日本海の海岸線が写っている。
道は谷川沿いから右側の斜面を登り、だんだん急になってくる。両もも、両ふくらはぎももう働けないと悲鳴を上げ始めた。トレッキングポール2本を新調してよかった。頼ってはいけないといわれているが、これがなかったらとても歩けない。もう何度目の休憩かわからない。とにかく足の叫びをなだめなければ。休憩。と気を緩めた瞬間、道の下り斜面側のキワにあった岩に足が引っかかり、下り斜面側に転倒した。あっという間に灌木の上を滑り落ちる。今度こそ遭難か。。。と思いきや、滑り落ちたのは1メートルほどだった。灌木の上に浮いているような状態で止まった。登ろうと足を動かしてみたものの、枝が柔らかくて上にすすまない。むしろ灌木の上をさらに滑り落ちそうだ。両手で灌木の枝を交互につかんでは這い上がり、手が道のところまで戻ったところで二男に引っ張り上げてもらった。二男は、「灌木の上でよかったよ、岩だらけだったら死んでいたかも」と真顔でつぶやいた。落ちた瞬間から道に戻るまでは、とにかく道に戻ることしか考えなかった。助かった瞬間から体中にゾーッと恐怖感が走った。怪我しなくて、死ななくて、本当によかった、命拾いしたぁ。
そして、さらに数十分、ほとんどべそかき状態で胸突き八丁を登り切り、山頂直下の大物忌神社に到着した。時刻は16時31分だった。
(続く)
弁護士 石川順子
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