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豊田誠著「公害・人権裁判の発展をめざして―豊田誠弁護士のたたかいの記録」の出版

豊田誠著「公害・人権裁判の発展をめざして――豊田誠弁護士のたたかいの記録」の出版

                 弁護士鈴木堯博

 1986年に設立された当法律事務所の創設者である豊田誠弁護士の著書「公害・人権裁判の発展をめざして――豊田誠弁護士のたたかいの記録」が2024年7月1日に日本評論社から出版された(313頁、定価2200円+税)。

日本評論社

 豊田弁護士は、イタイイタイ病、薬害スモン、水俣病、多摩川水害、ハンセン病、福島原発公害など、公害・人権訴訟の解決と公害事件の根絶をめざす活動に弁護士生涯を捧げた(2023年3月逝去、享年89歳)。

 豊田弁護士が本書の中で特に強調していることは、次の二点である。

 一点目は、「公害裁判の位置づけ」の問題である。要約すれば、「裁判で必ず企業や行政の責任を徹底的に追及して勝利判決を勝ち取ること。そして、勝利判決を勝ち取ったら、その勝利判決をテコにして、同じ要求を持つ被害者の要求を実現していく大衆闘争を組んで現実に解決していく」ことである。

 二点目は、「情勢を切り拓くこと」である。その趣旨は、「一番大事なことは、裁判は支援と世論で勝つことだ」、「裁判は運動で包囲しなければならない」、「常に情勢を主体的に自分たちの力で変えなければならない」、そして、「情勢を変えるためには人を変えなくてはいけない。人が変わることに確信を持つことが必要だ。そして、人を変えるためには自分がまず変わらなければならない。弁護士がまず自分自身の目の色を変えなければだめだ。そして被害者も目の色を変えて必死になって自分たちがやらなければ、決して情勢は切り拓かれない」ということである。

 豊田弁護士が最後に取組んだ公害訴訟は福島原発事故賠償訴訟である。

 史上最大最悪の公害である福島原発事故により、約16万5000人の住民が避難し、長年月に渡って発展してきた地域コミュニティが奪われた。そして、極めて深刻で多種多様な人権侵害と環境破壊がもたらされた。

 原発事故から13年が経過した2024年3月時点でも、約2万6000人が故郷に帰還できないまま避難生活を余儀なくされている。原発事故被害者のうち約1万3000人が全国各地の裁判所で原発事故賠償訴訟原告として東電と国の責任を追及し正当な賠償を求めて裁判を闘っている。

 国の責任については、2022年6月17日の最高裁第二小法廷判決は、経産大臣が規制権限を行使していたとしても本件事故は防げなかったかもしれないとして、国の法的責任を否定した。この最高裁判決は、原発推進政策を推し進める政権の意向を忖度した「結論先にありき」の誤った判決である。

 このような司法判断のもとでは、福島の復興・復旧が進展しないどころか、再び深刻な「原発公害」が発生する恐れがある。いま改めて福島原発事故に対する「国の法的責任」を明確に認める最高裁判決を出させて、将来世代のためにも、原発公害や核災害の脅威と不安にさらされない社会をめざしていかなければならない。

 人間の鎖が最高裁を包囲――【6.17最高裁共同行動】

 国の法的責任を否定した最高裁判決から丁度2年目を迎えた2024年6月17日、最高裁判決の誤りを正すために、原発事故賠償訴訟の原告団体をはじめとする原発問題・環境問題に取り組む16団体による「6.17最高裁共同行動」が実施された。約1000人が参加して、最高裁を完全に包囲する「人間の鎖」(ヒューマンチェーン)行動が大成功を収めた。マスコミも大きく報道した。まさに豊田弁護士のいう「最高裁判所を運動で包囲」したのである。

 【豊田弁護士の呼び掛け】に応えて

 豊田弁護士は、福島原発事故発生から1年が経った2012年4月、第1回「原発と人権・全国研究交流集会」実行委員長としての「開会挨拶」の最後に、「福島原発問題は、規模も深刻さも50年前の高度経済成長時代の公害の経験をはるかに超えています。過去の経験を経験主義的に承継するだけでは足りません。これまでの経験と蓄積をさらに発展させ、巨大な電力会社と政府の政策の根本的転換を勝ち取るために、新しい前進の地平を切り開いていかなければなりません。」と、力強く呼び掛けた。

 原発事故を二度と再び繰り返させないためにも、原発事故被害者の救済を図るためにも、そして、被害者らの故郷の復興・復旧政策を実現するためにも、国の法的責任を明らかにしなければならない。そのためには、最高裁判決の誤りを是正して改めて最高裁で国の法的責任を認める判決が言い渡されるような大きな世論を形成していくことが必要である。

 最高裁を包囲する「人間の鎖」行動が成功したことを踏まえて、豊田弁護士の呼び掛けに応えて「新しい前進の地平を切り拓く」ための国民的な運動を大きく展開していくことが、今こそ求められている。

以上