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調停ってどんなもの?

家事調停ってどんなもの?

2024.8.30
弁護士 石 川 順 子

 NHK朝ドラ「虎に翼」でにわかに脚光を浴びるようになった裁判所とその周辺の世界。とくに「家庭裁判所」「地方裁判所」。「ある業界が舞台のドラマを、その業界の人は観ない」という話はよくききます。刑事ドラマしかり、医療ドラマしかり、弁護士ドラマしかり。けれども、この「虎に翼」は、法曹界関係者のかなり多くが視聴しているようです(個人の感想)。
私は、2008年4月から今年2024年3月まで東京家庭裁判所の家事調停委員をしていました。今年4月からの放送開始後も、調停委員の知り合いに会うと、「虎に翼観てる?」とどちらからともなく話題になり、話が盛り上がります。
家事事件の調停に携わるのは「家事調停委員」。「虎に翼」でも、寅子の学友梅子の夫の遺産分割調停や日本人の夫とフランス人の妻の離婚調停で、女性と男性の家事調停委員が登場しましたね。
そもそも「調停」とはどんなものか、何か必要があってこのブログにたどり着かれた方々は、これまでにインターネットで検索しておおよそのことは調べがついているかもしれませんね。
たまたま開いてくださった方、私には関係ないわと、閉じないで、ちょっとだけ読んでみてください。

家族の形はいろいろですよね。また、生活していれば、楽しいこと、うれしいことばかりではなく、悩むこと、思ってもみなかった突発的な不幸な出来事など、さまざまなことがあり、家庭生活や親族関係のお悩みやお困りごとも、似ていることがあるとしても、どれひとつとして同じものはありません。他の家族を見ると幸せそうで、こんな悩みを相談してもわかってもらえないとか、恥ずかしくてとても他人に話せないと思っている方は少なくないと思います。
自分で解決するには、悩みのまさにその相手に悩みを話さなければなりません。ところが、そもそも話しの糸口がみつからない、相手がこちらの悩みをそもそも理解してくれない、感情的になって話し合いにならないなどの理由で、悩みを解決できないこともあります。また、話し合ってみても、相手が自分の非を認めようとしないとか、双方とも譲り合うことができず、解決策が見つからないということもあります。親に入ってもらっても、ますますエスカレートしてしまうこともありがち。すこし離れた親せきくらいの距離感の人に相談するというのは、昭和の時代の話。もっと昔の落語の世界では、長屋の住人の悩みを大家さんが「大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」と相談相手になっていますが、現代社会では、他人の争いごとに巻き込まれたくないと、かかわらないようにする人もいることでしょう。家事調停は、世話好きの親せきや大家さんなどの第三者が入って丸く収めるというようなことがなくった現代社会において、夫婦間、家族間のいざこざの解決のために間に入ってうまく着地できるようにサポートする役割を果たすものというイメージでしょうか。私の勝手なイメージですが。

 自分たちだけではどうにもならなくなったとき、第三者の助けはどうしても必要になります。家庭生活や親族関係の法的なお困りごとに第三者が中立な立場ではいって解決のために動く制度のひとつとして、家事調停があるのです。
調停では、事案ごとに担当裁判官1名と調停委2名の合計3名により構成された調停委員会が、各事案において双方の話しをきき、提出された資料を検討し、お互いに譲れるところを探り、解決のための合意を目指していきます。
調停委員は、人生経験、職業経験が豊富な民間人から登用されます。募集方法は裁判所によって異なります。東京家庭裁判所では、弁護士、不動産鑑定士など専門家は専門家団体からの推薦が多いようですが、一般民間人については公募が行われています。コロナ前には、数人でひとつのテーマについて討論するようすを試験官が観察するという試験方法があったときいたことがありますが、現在はわかりません。

調停は、申し立てた人(申立人)と、ものごとを解決したい相手(相手方)の双方が裁判所に足を運び、直接調停委員と話をするという方式が、当初からずっと採られてきました。その後2013(平成25)年からは一定の場合に電話会議が認められるようになりました。調停のために裁判所に出向いていくと、相手方と顔を合わせてしまうのではないかと思うと怖くて行けない、とか、お体がきつくて裁判所にまで出かけられないといった場合などの事情があるときでした。さらに、2021(令和3)年12月以降、東京、大阪、名古屋、福岡、熊本などでウェブ調停が行われ、今年2024(令和6)には、全国で順次行われるようになります。

 次回から、調停の場を生かしてものごとを解決するコツなどについて、書いていきたいと考えています。
(1) 家事調停でどんなことを取り扱っているのかとメリット・デメリット
(2) 調停はどのように進行されていくか
(3) 家事調停を始める場合の注意点と弁護士への相談・委任
(4) 申立書を提出するときのポイント
(5) 相手方からの反応に対する対応
(6) 資料の提出方法
(7) 調停期日にすること
(8) 調停成立にむけての注意点
(9) その他

(了)