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家事調停でどんなことを取り扱っているのか(その1) 弁護士 石川順子

家事調停でどんなことを取り扱っているのか(その1)

2024.9.21
弁護士 石 川 順 子

1 家事調停とは、ひらたくいうと、国の機関である家庭裁判所で、事案ごとに調停委員会をつくり、家族の間でおきたなんらかの法律関連の問題を、話し合いで解決するようサポートし、双方の意思が一致したときにはその内容を調停調書に記載し、一定のものについては法的に強制力をもたせるものです。

 双方が納得して問題を解決できることをめざし、調停委員から、両者間の話し合いが促進するよう、いろいろなお話があったり、考えをきかれたり、宿題を出されたりしますが、あくまでも主役は申立人のXさんと相手方のYさんです。自身でよく考えて、考えを述べる必要があります。

NHK朝ドラ「虎に翼」で、離婚調停の場面がありました。そこでは夫婦の両方が同席し、また、遺産分割調停では相続人全員が一堂に会して、調停委員会(裁判官と調停委員)とやりとりをしていました。当時はそうだったのか、ドラマだからそうしたのかはわかりませんが、私が調停委員を務めていた東京家庭裁判所では、同席、別席の両方がありました。その日の調停を始めるときに、原則として、申立人と相手方が同席で、調停委員から本日の課題や提出した書面を確認します。その後は別々に話をきかれたり、必要に応じてXさんとYさんの同意を得たうえで、同席で話し合いをすることもあります。そして、その日の最後に再び同席で、今日話し合われて到達した内容と次回期日までの課題を確認します。このような流れが一般的でしたが、どうしても同席に応じられない事情がある場合には、その旨を調停委員に相談してください。

 当事者が合意ができたときには、その内容を調停調書という裁判所の書類にし、調停は終了します。

 今回と次回は、調停の対象となる事例の種類についておおまかにご説明いたします。

2 家事調停の対象となるのは、親族間の問題です。そして、3種類のタイプに分けられ、それによって進め方や調停で解決しない場合の手続に違いがあります。

Aタイプ (裁判所では「別表第2調停」と言っています。)遺産分割など
Bタイプ (同じく「特殊調停」)離婚無効確認など
Cタイプ (同じく「一般調停」)離婚など
今回はこれらのうち、AタイプとBタイプについてお話ししましょう。
なお、A,B,Cは、石川の呼び方です。

3 Aタイプ 「別表第2調停」
典型例:遺産分割
その他:婚姻費用の分担、養育費の請求など

 人と人との間でトラブルが生じたとき、双方がよく話し合って、両方が心底納得できる合意内容によってトラブルを終了できればいいですよね。でも、もし当事者だけで話し合いができないとき、第三者しかも公的な公平中立の立場の者が話し合いをサポートしてくれて、それによって合意にいたれるなら、裁判などのおおごとにならず、これに越したことはありません。そのような解決方法になじむトラブルのタイプです。

  典型的な遺産分割を例にご説明します。遺産を残して男性甲さんが亡くなり、相続人が妻の乙さん、甲乙夫妻の子ら2名(丙さん、丁さん)が相続人である場合です。相続人3人で話し合って、全員がよければどんな分け方も可能です。もちろん、全員が判断能力に問題がなく、だまされたり脅されたりすることなく、冷静に自分の意思を決めることができる状態であることが前提での話です。相続人全員で決めた内容を遺産分割協議書にして、それにしたがって分ければ終了です。

 これに対し、取得したいものや金額について争いがあったり、そもそも何が遺産であるかや、ある財産が遺産かどうかについて、各人の意見が異なるために、話し合いがまとまらず、遺産分割協議書が作成できない場合があります。誰も何もしなければそこで止まってしまい、遺産を分けることができません。その間、誰も人が住んでいない遺産の土地建物が荒れ放題になり、近所から苦情が寄せられるなどということも起こりかねません。被相続人甲さんが亡くなってから10年以上も経って相続人丙さんが亡くなり、その子戊さんが丙さんを相続して、ようやく戊さんが甲さんの遺産分割について調停を申し立てたというようなこともあります。

 遺産の分け方で話がまとまらないときには、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員の関与のもとにさらに話し合いを進め、合意ができれば、調停調書を作成して、それにしたがって遺産を分けることができるようになります。詳しくは、後日、遺産分割調停についてまた記事を書きますので、それをご覧ください。

 その他、婚姻費用の分担は、夫婦の生活費を他方が分担しない、あるいは分担の金額が合理的でない場合に申し立てます。養育費の請求では、離婚時に養育費の支払いについて取り決めをしていなかった場合や、離婚後、倒産、失職、病気やけがなどにより収入が大きく減った、またはその逆で収入が大幅に増えたなど、状況が大きく変わり、決めていた養育費の金額に妥当性がなくなった場合に、調停を申し立てます。調停では、双方の収入と支出の資料、婚姻生活あるいは養育の状況について尋ねられます。

 調停委員が関与していろいろ話をしてみたものの、意見が一致しない場合はどうなるのでしょう。裁判を起こさなければならないのでしょうか。

 話し合いを続けても合意できる見込みがない場合には、調停は不成立となります。その場合、このAタイプの事案では、自動的に「審判」という手続に移行します。申立人も相手方も、あらためて審判の申立書を提出しなくても、裁判官が、出された資料にもとづき、法律にのっとって結論を決めることになります。それを「審判」といい、審判書という書類になって出されます。イメージとしては判決文のようなものです。審判が確定すれば(結論にだれも不服がなければ)、判決と同一の法的効力があります。

*遺産分割の場合は、裁判官が決めた遺産を取得することができます。不動産を取得した者は、ほかの当事者の実印がなくても所有権移転登記ができます。

*婚姻費用や養育費の場合は、裁判官が決めた金額を相手方は支払う義務を負うことになります。支払いを命じられた者が支払いをしなかった場合には、銀行預金や給与を差し押さえることができます。

 Aタイプの場合、合意ができずに不成立になると、特別な申立をせずに審判手続に移行し、裁判官が分け方を決めるというところが、この後に述べる他のBタイプ、Cタイプと異なるところです。

 ところで、余談ですが、遺産分割では、相続人が何を取得したいか、調停でどのように何を主張するのかをご自分で決定することが大事です。他の人からの影響を受けないよう、調停に出席できるのは原則として相続人本人のみです。身体介助や意思疎通の困難さをフォローするなどの合理的な理由があると認められない限り、相続人以外の人が同席することはできません。

 「虎に翼」の梅子さんの夫の遺産分割調停では、妻の梅子さんと3人の息子が相続人でした。夫の母(姑)は相続人ではないのに調停に同席していました。一瞬、「はて?」と思いました。しかし、私の中では次の様に理解しました。三男が未成年であるため、法的手続では親権者母である梅子さんが法定代理人として手続きを行うことになります。ところがこの遺産分割においては、梅子さんも三男も相続人同士で遺産を分け合う関係、つまり自分が多くとると三男に不利益を与えることになるという関係になります。そのような場合には、未成年者の利益を守るために、遺産分割という手続の場面で親権者でない人を三男の代理人にするという決まりがあるのです。その役目を「特別代理人」といいます。
姑は、三男に一番多く分けるべきだと主張していました。三男の特別代理人の発言としてもっともな言い分のようですが、その狙いは姑本人の口から出ていたように、三男をかわいがっている梅子さんを引きつけて自分の老後の世話をさせようというものでした。やれやれ。
それと、この場によねさんも同席していましたが、それはなぜでしょうか。轟弁護士は梅子さんの代理人で出席は当然ですが、秘書(このときにはまだ弁護士にはなっていなかったはず)は調停には同席できないのに、不思議。。。

閑話休題

4 Bタイプ 「特殊調停」
典型例:協議離婚の無効確認
その他:親子関係の不存在確認、嫡出否認、認知など

 夫が妻に内緒で勝手に協議離婚の届書を偽造して役所に出してしまい、別の女性と婚姻届を出していたというような事例があります。協議離婚の離婚届は、双方が協議離婚で合意し、それぞれ自分で届出書に署名する必要があります(手指がご不自由で自署ができない場合は代筆が認められますが、特別な条件があります)。合意がなく、署名も勝手に書いたとなると、文書偽造の犯罪にもなりますし、そのような離婚届は法的に無効です。本来は人事訴訟という裁判を起こして、無効であることを認める判決をもらい、判決に基づいて役所の戸籍係で戸籍を訂正してもらいます。しかし、勝手に離婚届を作成して提出した夫が非を認め、離婚状態をもとにもどす戸籍の訂正に合意しているのであれば、裁判までしなくてもよいとするのがこの特殊調停です。
 家庭裁判所にこの特殊調停の申立をすると、家庭裁判所が申立人と相手方に意思確認をするなど必要な事実の調査をし、その合意が正当と認められるときには、合意に相当する審判が行われます。この審判は、判決と同じ効力をもっていますので、これにより戸籍の訂正が可能となります。

5 Cタイプ 「一般調停」
典型例:離婚
その他:夫婦関係の円満調整、親族間の共有物分割
家庭に関する紛争等の事件のうち、別表第2調停及び特殊調停を除いた事件です。
これについては、次回にご説明いたしましょう。

以上