勾留請求却下を勝ち取った活動
少し前のブログにおいて、白井弁護士が、弊所の各弁護士は様々な人権活動をしている、と書いた。私は弁護団には現在加入していないが、弁護士会の委員会や会派には所属しており、その中で人権活動に取り組んでいる。今回は弁護士会の委員会とそれに伴う事件活動について書こうと思う。
私は、刑事弁護委員会に所属しており、その中の当番・国選部会、というものに所属している。部会にはほとんど顔を出せていないが、本体の刑事弁護委員会自体には出席しており、常に起こりうる刑事弁護において、当番弁護士の派遣、国選弁護の仕組みの検討、様々なことを話し合っている。そもそも当番弁護士とは何か?という疑問をお持ちの方もいると思う。当番弁護士とは、警察に逮捕され、身柄が拘束されている、警察署にいなければならなくなった方が、弁護士に接見といって、警察署に来てもらいアドバイスを求めることができる制度である。付け加えると、この当番弁護士の動き次第によって、その後の被疑者の勾留がなされるか否か、に関わる。勾留とは、逮捕された被疑者について逮捕日から48時間以内に検察官がもっと捜査をしたいからあと10日間は警察署で身柄を拘束してくれ、と請求し、裁判所がそれを是とした場合に、検察官の請求から10日間、勾留延長があれば、さらに10日、すなわち20日間身柄が拘束されてしまう。そういったことを防ぐための活動をするのも、この当番弁護士の仕事である。当番・国選部会では、いつだれが当番弁護士として待機するのかを検討する役目もある。そのような中で、半年ほど前になるが当番・国選部会の部会員ならではの事件の待機と事件活動を簡単に紹介する。
昨年の8月16日金曜日、お盆の時期であった。お盆の時期はみな里帰りをしたいとなり、多くの弁護士はその日に当番弁護士として、待機することを望まない。しかし、私は当番・国選部会の部会員として、お盆のような多くの人が当番弁護の待機をしたくないような日であっても、待機しようと思い担当を引き受けた。しかし、その日は台風が接近しており、相当な悪天候であったため、より待機して出動するのに苦労する日になったことは想定外であった。
その日は、民事事件の期日があったが、台風を理由にリモート参加にしてもらい、電話で期日の対応をした。他方で、当番弁護で身柄を勾留されている被疑者に対しては直接警察署に行かなくてはならない。待機日であっても配点があるとは限らないので、いつ来るかわからない当番弁護センターからの電話をまちながら、朝から在宅で活動していた。お昼頃に、当番弁護センターから当番弁護の配点があった。守秘義務もあるため、細かいことは書けないが、都内の警察署(事務所から40分程度)につかまっている被疑者に接見に行くことになった。天候が悪かろうと電車は動いているし、何より被疑者は捕まって不安なのである、被疑者ノートなどを持って、接見に向かった。ちょうど雨が本降り、風も強風の夕方でかなりつらかった。
警察署に行き、被疑者と話し、事案を聞いていると、どうも勾留請求自体されないか、されても却下だろうと考えた。しかし、弁護人からの意見書は必要と考えて起案した。そして、検察庁へ意見書をFAXした。
しかし、残念ながら8月17日、すなわち土曜日に勾留請求はされてしまった。こうなってくると、勾留請求却下といって、検察官の勾留請求を裁判官に却下して欲しいという意見を伝えなければならない。私は土曜日も警察に接見に行き、勾留請求却下申立書を書く上での情報を仕入れて、そのまま事務所に向かい夜10時頃まで起案に励んだ。申立書の中には裁判官と直接話しがしたいとも書いた。
翌日は午前7時に起きて電車に乗り、裁判所へ申立書を提出しに行った。保険としてFAXもしておいたが、それも届いていたようだ。行く途中の電車はお盆中かつ日曜日のためか空いていた。
裁判所において申立書を提出するとともに、裁判官との面談を申し込んだ。裁判官は事案を把握する必要もあるため、記録を読む時間が必要である。そのため、少し待ってくれないか、とのことであった。8時半に到着してから、1時間半ほど裁判所の近くで待っていると、携帯電話がなり、裁判官の準備ができたと言われた。
裁判所に再び入り、裁判官と面談する。見た目は40代半ばの物腰柔らかな印象を受ける男性裁判官だった。しかし、物腰柔らかという印象であるから勾留決定しないというわけではない、私は申立書の中身の説明や補足説明をして、本件は勾留決定をする事案ではない、と考えを伝えた。裁判官は私の話をしっかりと聞いてくれた。
同日の夕方頃に勾留請求却下の連絡が警察署から釈放された被疑者から来た。私は喜びと達成感でいっぱいになった。被疑者の10日間の勾留を阻止できたのである。台風の日に接見に行き、日曜日の朝から動いた結果がでた。刑事弁護人としてこんなにうれしいことはない。被疑者もこのまま10日間警察署にいたら心が折れてしまうところだった、ありがとう、と感謝の言葉を言ってくださり、そのことも私は嬉しかった。
以上が、私の弁護士会、事件を通じた人権活動である。刑事事件は民事事件と異なり、こちらから警察署へ訪れ、土日関係なく動かなけなければならない。当番弁護制度を作ることに携わり、市民の方の法的サービスを充実させ、ひいては人権を守る活動に励んでいる。