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弁護士事務所の広告問題  弁護士小峰将太郎

 以前にお話ししたことがあるように、私は弁護士会の委員会と期成会という東京弁護士会の会派で活動をしている。これらは直接的な事件活動ではなく、市民の方のサービスなどを考えた一種の公益活動である。今回は、法律相談委員会と期成会とで問題となった、表題の弁護士事務所の広告問題について、取り上げてみようと思う。

 弁護士事務所の広告、と聞くと今は当たり前にホームページがあり、当たり前に、刑事事件専門、離婚事件専門、などと書かれた事務所の広告がインターネット上に乗っていたり、X(旧Twitter)やFacebookで広告があったり、ラジオやテレビのCMなどでも見かける。
 しかし、これらの広告は実は弁護士会ができた当初、内部規律でかなり厳格に規制がされていた。正確にいうと、今も弁護士会の「弁護士等の業務広告に関する規程」という内部規程で規制されている。先で述べた〇〇専門、という表現は基本的には使用が好ましくないものとされてきた。弁護士である以上、どの分野でもできるのが当たり前という観点からであろう。ただ、現在は時代の変化とともに、専門分野というものを各々の事務所や弁護士が築き上げてきている。弊所が医療問題に注力しているように、他の案件もやるが、特にこの分野は経験が豊富ですよ、ということを打ち出すことは容認されてきている。

 ところが、つい最近に法律相談委員会、および期成会若手の会からとある広告形態への疑問が提起された。それが借金減額診断、借金減額シミュレーター、国が認めた借金減額方法、といったものである。これについて、弁護士会も頭を悩ませている。
 借金減額、国が認めた、と聞くと何やら裏技がありそうな書きぶりであるが、基本的には、任意整理といって分割で返済していく過程で利息カットを弁護士が交渉できるというもの、あるいは、個人再生といって、一定の要件を満たせば債務額を5分の1にできる(しかし、100万円以下にはできない)もの、自己破産といって、借金をチャラにするもの、の3つである。これらについては、個人再生以外は一般に浸透している用語かとかんがえる。そして、その個人再生も簡単に借金が減るものではなく、一定の条件や細かい裁判所とのやりとりを経てようやく実現できるものである。
 こういった広告はいかにも、一般の人が知らない裏技で借金額を減らすことができる、という誤認を招きそうなものであり、弁護士会でもこれらの広告についてどう対応すべきか問題提起がされている。

 上記の広告において、自己破産手続も個人再生の手続も国が認めた破産法などで規定されている以上、まったくの嘘ではない。先の内部規程においても、事実に合致していない広告、は規程違反の広告であるが、この点なんともいえない。また、広告には氏名(事務所名)と所属弁護士会を書かなくてはいけないという決まりもあるが、こういった広告にも小さく事務所名と所属弁護士会は書かれており、明確に内部規程に違反しているとは言いづらいものではある。
 しかし、借金減額という言葉に連れられて、その流れで弁護士に依頼して、弁護士費用を含めたら、結局実態として減額にならないケースも散見される。法律相談委員会も、期成会という会派でもこれらの問題について、市民の方々のサービスではなく、むしろ困っている方の事態の悪化になるものとして好ましくない、何らかの規制をすべきだ、という考えもある。
 私としても、これらの広告で債務と同額に近い弁護士費用を支払ってしまった相談者の方の話を聞いたことがあり、これらは弁護士会として対応していかなければならないだろう。そうでなければ弁護士会内部の自浄作用が働かないことになり、ひいては、サービスを受ける市民の方々にサービスどころか不利益を与えてしまう。

 上記問題について、弁護士会では市民の方に適切なサービスが届くように誤解を与えるような広告を改善させようと検討に取り組んでいる。市民の方もインターネット社会で弁護士の情報がわかる時代にはなったが、実際に会ってみることが一番その弁護士を知ることができると私は考える。デジタルな時代こそアナログな方法をとることがベストな選択になることがあるのは様々な場面で言われていることだ。
 私も弁護士会活動や会派の活動を通じて、弁護士自治を守り、市民の方のサービスの向上に努めたい。