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罪を償う

2020.2.15

 おととし、Amazonプライムビデオで映画観賞を始めたころ観た映画に「手紙」(2006年製作)があった(〔 〕内は演じた俳優)。両親のいない兄弟がいて、弟〔山田孝之〕の進学費用のために兄〔玉山鉄二〕が強盗殺人の罪を犯してしまい、弟はそのために大学進学を断念して就職するも、兄のことを知られると職場に居られなくなり、恋人〔吹石一恵〕とも別れなければならないことになるなど、差別に苦しみ運命を恨む弟に寄り添う女性を沢尻エリカが演じていた。罪を償うとはどのようなことなのか、差別を受ける家族の苦しみ、犯罪者の家族となった人のその犯罪者との心の葛藤、差別にどう対峙するかなど、考えさせられた。そして、沢尻エリカ(この映画で初めて知った。この1年余りの間に若い俳優さんをたくさん覚えた。)のピュアな演技が印象に残った。昨年の寒中お見舞いはがきに、私は当時鑑賞した映画の代表選手のひとつとしてこの「手紙」を挙げていた。沢尻エリカに執行猶予判決が出された今回、もう一度見直してみた。この撮影中に彼女が違法薬物を使用していたのかどうかは知らないが、差別に正面から立ち向かおうとするひたむきな姿を見事に演じきっていたと思う。

この映画の中では、兄、弟、沢尻エリカ演じる女性が書く手紙が、伝えることの価値、手紙を出す意図とはことなってしまう他者への影響、手紙を出さないことの意味などを暗示し、複眼視的に描かれている。また、この作品の中で、兄は自分が犯した罪のために弟をも苦しめている、そのことを含めて兄の罪なのだと言った人物〔杉浦直樹〕がいた。強盗殺人事件の被害者といえば、命を奪われてしまったその人とその遺族である。それに加えて自分の家族を苦しめることを含めて罪だという視点が、この作品の中で特に心に刻まれた。

今回沢尻エリカが犯した罪自体には、特定の被害者はいない。しかし、違法薬物を使ったことによってそれを売る犯罪者集団に利益をもたらし、違法薬物濫用を広めることになり、それによって苦しむことになる人、撮影中の映画やテレビ番組の中止などにより、経済的に損害を受けることになる人たちは多数存在するだろう。芸能界のことはよく知らないが、大手の会社から下請け、孫請けの業者や従業員、アルバイトなどのスタッフまでどれだけの影響が及ぶのか、突然のできごとでしわ寄せは結局弱い立場の人たちに及んでしまうことはないだろうか。

今回の判決が確定すると、彼女は執行猶予期間中、違法薬物使用は当然のこと、それ以外の犯罪を犯せば執行猶予は取り消され、今回の罪と猶予期間中に犯した罪とで刑を執行されることになるという立場になるが、何事もなく執行猶予期間を経過すれば、刑の言渡しは効力を失う。つまり刑務所にいかなくてよいことになる。しかし、仮にそうなったとしても、それで彼女の犯した罪がすべて帳消しになり、何もなかったことになるわけではない。刑事手続以外の法的な問題や、それ以外の社会的なさまざまなことがのしかかってくるのが現実である。彼女はそれを引き受けていかなければならない。自分で自分自身に課してしまった荷であり、自らに対して犯した罪ともいえる。

人間は弱いものだから、間違ったことをまったくしない人はいない。しかし、故意の犯罪となると、高いハードルを越え、自分を犯罪者にするということになってしまう。自分の中に、自分のありたい姿をもち、自分を本当の意味で大切にすることによって、そのハードルを越えず自分自身を犯罪者にしないことができるのではないか。

沢尻エリカ本人は女優に復帰しないと公判で述べ、全力で更正に向けて努力することが自分にできる唯一の償いと自筆のコメントを公開したそうである。いわば、沢尻エリカから社会への「手紙」であるが、手紙の文言からは彼女の償いの形はわからない。沢尻エリカの償いとは何か、それは今後ずっと、彼女自身が探っていくことになるのだろう。社会の表舞台から身を引き、自身がもっともやりたいことを諦めるという精神的な苦痛を引き受けるのか、その他なのか、彼女自身のこれからの行動がそれを示すことになる。

 まずは、彼女自身が自分を大切に抱きしめてあげて欲しい。どのような形であれ、彼女自身が真の意味で自分を大切にした生活ができていると思える状態が続くこと、私はそれを願う。彼女の演技に感銘を受けた者として、彼女のことを頭のすみっこに置いておきたい。

石川順子