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「手洗い」に思う

2020.3.1

 新型コロナウィルス(COVID(コビット)-19)の感染拡大が収まらない。自分でできることは、手洗い、うがい、咳エチケット。栄養のあるものをバランスよく食べて、運動して、免疫力を高めること。

手洗いで思い出すのは、まず小学校の昇降口。入口近くにずらっと水道が並んでいて、蛇口の付け根に赤いネット(八百屋さんでミカンがいれられていた。あれは児童から集めたモノだったのだろうか?)が縛ってあり、中にオレンジ色っぽい石けんが入っていた。ネットに入った石けんを両手で挟んでこすると心なしかよく泡だつ。手を動かしているうちに泡を大きくするのに夢中になってしまうのだった。木造校舎に入ると廊下に流しがあり、そこにも同じように赤いネットで石けんがぶら下げられた蛇口が並んでいた。
木造の校舎が建替えられ、鉄筋コンクリートの「新校舎」になると、廊下の流しの蛇口の横に、緑色の液体石けんシャボネットが入った半透明のプラスチックの丸い容器が取り付けられていた。物珍しくてはじめのころは、よく使っていたものだ。
しかし、私は子どもの頃からいつも手が冷たかった。それでも冬以外は気にならなかったので、手を洗うのは苦でなかったが、冬は手がいつもかじかんでいるので、手洗いは指先だけちょちょっと濡らして洗ったことにしていた。

12年前、日本弁護士連合会の人権大会で医療安全問題がテーマのひとつとなり、海外の医療事故に関する制度や運用を調査して報告するため、弁護士10名くらいでイギリスとフランスの厚生行政部門、補償制度を担当する機関、裁判所などを訪問する機会があった。フランスで、「フランス人は手を洗う人が少ないので、今手洗いを習慣とすべくキャンペーンを行っている」という話をきいてびっくりした。そのキャンペーンのためなのか、公共のトイレの洗面所には、ほとんどと言ってよいほど高率にハンドドライヤーが備え付けられていた。帰国して公共のトイレにはいると、ハンドドライヤーの普及率はあまり高くない印象を受け、日本でももっと普及して欲しいと思った。それから12年、少しは増えたように思うが、フランスの普及率に追いついているのかどうかはわからない。また、その後フランス人の手洗い普及率が上がったかについての情報は得ていない。

2015年10月から医療事故調査制度が始まった(https://www.medsafe.or.jp/modules/medical/index.php?content_id=2)。その少し前に、文京区本駒込にある日本医師会館大講堂で、日本医療安全調査機構や厚生労働省の責任者による説明会が開催された。一般人も入場できるとのことだったので出かけていった。
日本医師会館大講堂は、日本弁護士連合会の大講堂ともいえる「クレオ」という講堂より数段立派だった。なにしろ、シート(日弁連の座面を倒す式のシートではない)のすわり心地はよいし、筆記用のテーブルは固定式で一人分の広さもゆったりして使用感も快適。一番感心したのは、通路からずらっと並んだシートの奥の席に行こうとするときに、すでに着席している人を立たせたり、足を引っ込めさせることなしに目的の席に行けること。シートは独立していて、背面と後ろの席のテーブルの間に人が通れるスペースが確保されている。これなら、偉い先生のお邪魔をすることもない。
話がそれた。説明会の休憩時間中に化粧室に行った。そこにいる女性たちは、医師か、看護師か、病院の事務部門の担当者か、いずれにしてもほとんどが医療関係者である。このごろの私は、加齢現象も相まって冷たい水で手を洗うのがおっくうになっている。寒い季節ではないのに、指先をちょちょっと濡らすくらいですまそうとして、ふと横を見ると、端正な面持ちの女性が手を洗っていた。それは、今から思えば、現在推奨されている手洗い方法の見本のような洗い方だった。液体石けんをよく泡立てて、手のひらを内側にして擦り洗い、次に片方の手の甲の上に他方の手をかぶせて指のまたを洗い、親指の周りをくるくると洗い、手首をもう片方の手で包んでくるくる回すというあの洗い方。それをこともなげに手早くさっさとやっていた。これから何か医療行為をするというわけでもないのに、そこまできちんと手を洗うのか。。。と私にとってはけっこうショッキングなシーンであった。
今回の新型コロナウイルス流行の事態になり、あの女性の手洗いを思い出した。石けんやハンドドライヤーが備え付けられているトイレにはいったなら、その機会によく洗っておくという意味があると再認識した。

先々週、仕事がらみでドクター一人と、合計4人で食事をする機会があった。いきおい新型コロナウイルスの話題になる。ドクターは鞄からおもむろにポンプ式のアルコールジェルを取り出し、「はい、はい、皆さん手をきれいにして」と除菌を勧めた。アルコールを携帯とは、さすが医療従事者のこころがけは違う。そういえば、入院したとき、看護師さんはポシェットにアルコール除菌のポンプをいれて腰にぶら下げ、処置をするたびに手を除菌していたっけ。

都道府県別新型コロナウイルス感染症患者数マップ(https://gis.jag-japan.com/covid19jp/)によると、直近1週間の感染者の増加数(新しく感染がわかった人の数)は、2月27日の24人をピークとして、28日は18人、29日は9人と減少している。まずは、新たに感染する人が減り始めることが終息への希望の光になるような気がしているが、まだ、2日なので減り始めたという評価はできないだろう。また、感染者の発生数は、現在の検査態勢においてという条件下である。韓国では、ドライブスルー方式により検査実施者や待合室で待つ検査対象者への感染リスクを減らし、短時間のうちに多人数の検査ができる態勢になっているときく。韓国の感染者は報告数としては日本より多いことになっているが、同じ条件下だったらどうだろう。日本が韓国よりも少ないという保証はどこにもない。

新型コロナウイルス感染が終息するまでは、職場や自宅にウイルスを持ち込まないような工夫と習慣を心がけよう。いままでのちょちょっと手洗いを反省した。

 

新型コロナウィルス問題等により落ち着かない気分が続いていたが、朝出かけるとき玄関前をふと見ると、白いクリスマスローズが数輪咲いていた。クリスマスと名前がついているが、わが家では例年1月から3月頃まで咲いている。うつむいて咲くので目立ちにくいとはいえ、今年は気づくこころの余裕がなかった。植物は、人間の世界にどんなことがあっても、開花の条件が整えば黙って静かに花を咲かせる。励ましてくれているように思えて、ありがとうと言って写真を撮った。

 

石川順子