200.4.18
自宅から最寄り駅まで16~7分歩く。以前、通勤途中の楽しみで紹介した寒桜も最寄り駅までの経路にある。畑、住宅地、公園、ショッピングセンターなどの横を通っていく。
今年は春の訪れが早かった。春、沈丁花の香りが漂ってくる。畑の脇にふきのとう、ホトケノザが生えてくる。そしてその後の時期、私が駅までの道で楽しみにしているのは、歩道の街路樹の根元にいつの頃からか咲くようになった、青い矢車草(ヤグルマソウ)とオレンジ色の雛芥子(ヒナゲシ)である。いつも同じ時期に同じ場所に咲くので、青とオレンジが入り交じって花束のように美しい。3月に咲いているのを見たことはなかったように思う。ところが今年、初めて矢車草が咲いているのを見たのは、3月11日。雛芥子の姿はなかった。
そして、離れたところにひっそり一輪だけ咲いている雛芥子を見たのは3月16日。これまで歩調が同じだったからといっても、今年の暖冬のせいか、いつもと異なる事態が生じて、両方の開花の条件がそろわなくなり、それぞれ異なった振る舞いになったのかもしれない。ヒトも同じようなことがあるなぁと一人で勝手に納得した。
4月に入って、ようやく雛芥子がたくさん開花してきた。ところで、この雛芥子の方であるが、ネットで検索したところ、長実雛芥子(ナガミヒナゲシ)という名であることがわかった。ケシの仲間はみなそうなのかもしれないが、この長実雛芥子、つぼみの時はうなだれている。それが、花開くときまでにだんだん頭をもちあげて、花は上を向いて開く。花が散ってできる実は芥子坊主というらしいが、細長くてしっかりと空に向かってぴん背を伸ばしている。
数年前、落ち込むことがあった。この雛芥子は、いつも同じ季節に同じように咲いていて、特に気に留めたこともなかったが、この時、歩く際の視線がうつむきかげんで道ばたに向いていたのだろう。雛芥子のつぼみが目に入り、はっとした。これはうなだれた今の私の姿なのでは? 目を移すとすぐそばには、同時に、花を咲かせているものがあり、また、実を結んで天を指しているものもあった。そうか、今はうなだれていても、時が来れば花を咲かせ、胸を張るのだ。雛芥子の姿を見て思った。できの悪い映画の一シーンのようだが、本当にそのとき雛芥子に気づかされたのだった。
雛芥子のうなだれ蕾が花咲かせ 散りたるのちは実が天を指す 順子
この1ヶ月半ほど、新型コロナウイルス感染問題で落ち着かず、ブログもさぼってしまっていた。しかし、医療従事者、保健所をはじめとして関係者の方たちは身を粉にして感染と戦ってくださっている。また、自粛で売り上げが激減した苦境の中でも、新しいアイディアで乗り切ろうと頑張っているいろいろな職種の方たちの活動が報道されるようになった。せめて自分にできること(手洗い、咳エチケット、移動の抑制くらいしかないが)を確実におこない、感染終息を祈りながら、Stay homeで仕事を続けよう。
ところで、ナガミヒナゲシは帰化植物で、「生態系被害防止外来種リスト」で指定は受けていないものの、他の植物の育成を妨げる成分を含んだ物質を根から出すことから、生態系の影響が心配されるため注意が必要といわれているようだ。しかし、植物に罪はない。街路樹の根元に咲いていても、街路樹が弱っているようには見えないのだが、悪者にされるのはかわいそう。
石川順子