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職務質問を受けたことがありますか 弁護士岡村実

職務質問を受けたことがありますか 弁護士岡村実

皆さんは職務質問を受けたことがありますか。私はあります。

その体験をお話しする前にまず、職務質問とは何かを簡単にご説明します。職務質問とは、警察官職務執行法に基づき、警察官が異常な挙動その他、周囲の事情から合理的に判断して、何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者または既に行われた犯罪について知っていると認めれる者を停止させて質問する行為をいいます(同法2条1項)。つまり、私は法の建前で言えば、犯罪に関係している疑いのある者と見做されたわけです。

職務質問は次のような状況で受けました。もう20年くらい前の話です。私は弁護士会主催の法律相談のため北千住駅近くの法律相談センターに向かっていました。すると一人の男性が私の前に立ちふさがり、警察手帳を示し、「どこに行こうとしているのですか。」と質問をしてきました。私は、自分が弁護士で、これから法律相談に行くところだと説明しました。その上で、あなたは、職務質問をしているわけですが職務質問が許されるのは、異常な挙動等で、犯罪を犯したと疑う合理的な理由のある場合などですが、私が犯罪に関係していると疑われる理由は何ですかと質問しました。警察官は答えることができませんでした。警察官は少しの沈黙のあと、カバンの中をみせてもらってもいいですかと言ってきました。お断りしました。私は警察官職務執行法で質問が許される場合には全く該当していないと思いましたのでやや憤然とした面持ちでお断りしました。それ以上の追及はありませんでした。通常、職務質問を行っている警察官が、このようにあっさり引き下がることはすくないようです。私が弁護士と名乗ったためであると思われます。

ところで職務質問は上記のとおり犯罪に関与している可能性が高い場合に限り認められるというのが原則なのですが実際は違うようです。 弁護士、衆議院議員であり、1996年、1997年にかけて国家公安委員長を務めた白川勝彦氏も、2004年11月11日と2006年12月22日と2回、渋谷区路上で職務質問を受けています。全く犯罪に関与していないときにです。

第1回目の職務質問の様子について白川氏は、WEB永田町徒然草「忍び寄る警察国家の影」(ネットで検索可能です。)の中で次のように記載しています。「私が4人組の襲撃を受けたのはハチ公前交差点から100mほど道玄坂を上った広い歩道で通行人も多いところでした。・・・そうなのです。私を白昼堂々襲ってきた4人組は警察官だったのです。少しむさ苦しい恰好だというのは自覚していました。だからと言って警察官の職務質問を受けなければならないという状況でないということは明らかでした。それも質問などというものではなく、いきなり4人にぐるりと囲まれ、ズボンの左右のポケットと財布の入っている後ろのポケットに強く触れられたのです。」

白川氏は、職務質問に応じることを拒否し、4人の警察官と一緒に渋谷署に行き、副所長の前で、4人の警察官に対し。同人らが行った職務質問の問題とされるべき点を説諭することになります。 白川氏は、次のように述べます。「私が受けたような職務質問が公然と許されるようになれば我が国は早晩、警察国家となるでしょう。私たちの人権は確実に侵され、私たちは国家に対して従順に生きていかなければなりません。・・・・・私に対してあのような石頭的対応しかできなかった警察官のやることを、私たちはどうして素直に受けれなければならないのでしょうか。少なくとも私はそういう社会にすみたくありません。日本をそういう国にしたくありません。」

2回目の職務質問を白川氏は2006年12月11日に受けており、この時のことも同氏はWEB永田町徒然草「またまた職務質問に!」で詳述しています。白川氏や一緒にいた友人のポケットに触ろうとする気配があったので、白川氏が機先を制し「私は公安委員長をやった者だが、また渋谷署は恥をかきたいんですか。前回のことは知っているんでしょう。」と強く言ったらそれ以上の質問をあきらめたとのことです。

白川氏の受けたような職務質問は残念ながら一般的に行われています。元北海道警察警視長の原田宏二氏は、同氏の著書「警察捜査の正体」の中で違法な職務質問が多発する背景について次のように記載しています。

「警視庁をはじめ、多くの都道府県警察では、地域警察官に対して、管理目標、努力目標と称して年間の職質による検挙実績の目標、いわゆる『ノルマ』を課し、地域警察官を対象に職務質問協議会を開いたり、職質による犯罪検挙月間を実施し職質による犯罪検挙は表彰の対象にするなど職質奨励策を講じている。そのため、地域警察官に職質の要件を欠いた職質や任意の限界を超えた職質が横行することになる。」(同書104頁)

「警察学校初任科の教科書(警職法)には『個別の法律の根拠がなくても任意活動は行うことができるので、警職法の職質の要件がない場合であっても、相手方の承諾を得て所持品を検査することは法的に認められる。』とする記述がある。『任意活動』という意味不明の言葉が登場するが、権力をもった警察官の任意活動とは何か明確にするべきだろう。」(同書105頁)

職務質問が、犯罪の検挙や防止のために一定の役割を果たしていることは確かです。しかし現在の運用状態は、警職法によって認められる範囲を大きく逸脱しており、国民の自由を大きく制限しています。白川氏の指摘するとおり、警察国家の道を進んでいると言っても過言ではなく、早急に是正される必要があると考えます。(以上)