座右の銘 弁護士鈴木堯博
人は誰しも「座右の銘」を持っているだろう。座右の銘は、その人の成功体験や失敗体験に裏打ちされているので、人様々に異なる。
私の座右の銘は「継続こそ力」である。
座右の銘として「継続は力なり」を挙げる人は多いと思うが、私の場合は「走ること」についての苦い失敗体験と感動的な成功体験の双方の経験を持っているので、「継続こそ力」の「こそ」に力点を置くことになった。
失敗体験は、高校2年生の時に遡る。
運動会を控えてクラス対抗戦となる各種目の選手はクラス毎に決められた。私のクラスでは各選手が機械的に割り当てられ、私は800m競争に出ることになった。しかし、当時は柔道部の部活動はしていたものの、運動場を全力で走ったりする経験もなく走ることに自信がなかった。800m競争に割り当てられた以上やるしかないと思い、運動会の1週間前に、独りで運動場の400mコースを全力で走ってみた。ところが途中で息切れして歩く始末となった。
運動会の当日、このような醜態を見せてクラスの恥さらしとなるわけにはいかないと思った。そこで、出番である時刻の直前に、運動場の見える2階の図書室に籠ってしまった。無断欠場である。「2年Ⅾ組の鈴木君! 早くスタート地点に並びなさい。」とのスピーカ呼び出しを聞き流しながら、自己嫌悪感に苛まれていたのを今でも覚えている。その時以来、「走ること」に対し強い苦手意識を持つに至った。
しかし、満40歳の年に成功体験を味わう切っ掛けとなる出来事が起こった。
まさに誕生日のその日、突然ギックリ腰に襲われた。それまで経験したことのない腰痛のために数日間身動きが取れなかった。病院で検査したところ、痛みが和らいでから腰痛緩和のために水泳などの継続的な運動を行うようにと医師から指示された。
そこで選んだ継続的な運動は、水泳ではなく、何処でもできるジョギングだった。
自宅近くの運動場や道路で毎晩のようにゆっくりと走った。最初のうちは苦しみに喘ぎながらも、ジョギング終了後の風呂上りのビールの味を楽しみに変えて継続した。
そして、3か月余り経った日のジョギング最中に突然気持ちが楽になった。まるで孫悟空が雲に乗ってフワフワと移動しているように、いつまでも気持ちよく走り続けられるような爽快感に充たされた。「ランナーズハイ」という現象だった。
それ以来、ジョギングは生活の一部となり、走り始めて3年目からフルマラソンにも挑戦するようになった。
やがて、フルマラソン大会に年10回以上出場することが当たり前の生活習慣となった(完走回数延べ263回)。
屈辱的な失敗体験は、それが礎となり、フルマラソンが走れるようになって「達成感」を味わうという成功体験へと変貌した。
今でも、「継続こそ力」という「座右の銘」は、自分を励ましたり、戒めたりするのに役立っている。
以上