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念願かなって鳥海山登山報告(その3) 弁護士 石川順子

2024.2.11

37年前から、「いつかは鳥海山」(2236m)と憧れ続けてきた。1日目の登り。地図上のコースタイムで4時間40分のところ9時間もかかってやっと山頂直下の大物忌神社御室小屋に到着。小屋前の広場からは遠く日本海が見える。日が暮れる前について本当によかった。
山小屋は、個室があるとのことだったので個室を予約していた。そのとき、床は板で、コロナ対策のため寝袋を持参するようにとのことだった。教えられた小屋に行ってみると、大部屋とは別棟の個室だけの小屋だった。ドアを開けてえっ。これが個室。。。昔の大学の合宿所とかユースホステルに設置されていた蚕棚。私が知っているのは1人分のスペースが畳一帖分というものだが、ここのは畳2帖分つまり正方形の一坪分2段式の上。定員2名。昔3段式の寝台列車があったっけ。あれよりはだんぜんいい。なんか、はしごをのぼりおりするのが楽しく学生気分。床は板敷きだが厚さ約2cmくらいの固いスポンジはめ込み式マットが敷いてあった。板で眠れないと困ると思い、折りたたみのマットを買ってリュックの上に縛り付けて持ってきたのに、いらなかった。。。まぁ敷いて寝よう。幸い端の部屋で窓があって新鮮な空気を入れられた。

こまったのは水だった。担いできたのは500mlのペットボトル4本。山小屋で水を売っているとのことだったので、下り分は買えばいいと思っていた。甘かったぁ。今回の登山路の途中には水場は1箇所しかない。しかし、猛暑のためか水が涸れていた。また、中間地点の鳥海湖が見える場所にある御浜小屋は、8月27日で営業を終了していた。そのためもあってか、御室小屋の水は到着したときすでに売り切れていたのだ。万事休すと思いきや、山小屋で煮出した麦茶を分けてもらえた。これで助かった。

山小屋泊は2度目である。1度目は水蒸気爆発前の木曽の御嶽山であった。両親(父が山好きだった)と子ども2人といっしょに登った。御嶽山の山小屋は、信仰で登山する信者のための小屋が、一般客も泊めているというふうの小屋であった。白装束の信者たちの部屋は個室(蚕棚ではなくて部屋)、一般客は板敷きの広間に雑魚寝。食事は、ご飯、わずかな具の味噌汁、昆布の佃煮、鮮やかな色の漬物くらいだった。山小屋初体験だったのでこういうものかと受け止めたが、登山なれしていそうな女性が、「北アルプスだったらあり得ない」などと小声でつぶやいていた。あの御嶽山山頂直下の山小屋が水蒸気爆発で被災した写真を見たときには、とてもショックだった。
話は戻って食事である。2度目なのでどうしても1度目と比べてしまう。大物忌神社御室小屋の夕食は、コロッケ、昆布の佃煮、春雨サラダ、シナチク、こんにゃくの梅酢和えと味噌汁。こんなにおかずがいっぱい。コロッケはごちそうだ。二男はビールを飲んだ。私も飲みたいところだったが、体力温存、睡眠確保のためにぐっと我慢した。
食事は、食堂で前半と後半の交代制で一斉にいただく。他の登山客の方の話しなどもきける。明朝のご来光と「影鳥海(かげちょうかい)」の話しでもちきりであった。ご来光は登山者の楽しみの1つとしてメジャーだ。そして、鳥海山ならではの楽しみが「影鳥海(かげちょうかい)」である。朝日が昇るとき、条件が良いと鳥海山のシルエットが日本海に映る現象である。その写真が食堂に掲げられている。これをみられたらラッキーだそうだ。私たちも明日の朝、日の出前に起きて、その2つに挑戦することにした(が、それに気をとられて、夜空を楽しむことをすっかり忘れてしまった。やっぱり、9時間以上の登山でかなり疲れていて、早く体力を回復しなくちゃと眠ることばかり気にしていたからだ。翌朝、満天の星の話しをきいて、地団駄を踏む思いだった)。
翌朝、まだ暗いうちに起きてヘッドライトをつけ、ご来光が見える山頂または七高山(鳥海山で2番目のピーク)に登ろうとした。しかし、山頂は岩を積み上げたような山で、暗い中でヘッドライトで登るのは私の能力では無理。また、七高山は、いったん雪渓の谷に降りてから、外輪山の縁まで登ってそこから七高山山頂を目指さなければならない。二男と相談し、二男だけ七高山でのご来光を拝むこととし、私は山小屋で待つことにした。山小屋からは外輪山が壁となって東側が見えない。
しらじらと夜が明け始める。ご来光を観に行かない人たちが影鳥海を楽しみにして、山小屋前の広場に三々五々出てくる気配を感じた。私も出てみる。空は明るくなって、今日も晴れである。
あっ。日本海に山の形が映っている。これが影鳥海だ。他の登山客も思い思いに歓声を上げ、日本海に映った美しい鳥海山の形を眺めている。ガイドさんまで興奮気味に、「皆さんものすごく幸運ですよ。私だってこれで3度目ですから」と言っている。私がスマホを持って手を伸ばし、影鳥海をバックに自撮りしようとしていると、ガイドさんが、自分のお客ではない私に、「撮りましょうか」と声をかけてくれた。お言葉に甘えて撮ってもらった。山のガイドさんは心が広い!私は運がいいんだ、これにあやかろう! 年の前半、なんとなくいいことがあまりなかったような気がしていた私は自分を励ました。

しばらく影鳥海を楽しんだ後、二男が帰ってきた。七高山山頂ですばらしご来光を拝んだと写真を見せてくれた。真っ暗な中、たまたま一緒になった男性と登っていったそうだ。よくぞ険しい外輪山の壁を登りきり、ご来光を楽しんで無事に帰ってきてくれたと、わたしは安堵した。

 朝食も完食でいただき、さあいよいよ七高山そして下山だ。まずはいったん、二男がご来光のために登り降りした外輪山の壁を、私も登らなければならない。しかし、このときは、夜は明けていたので、特に心配はしていなかった。

(続く)
弁護士 石川順子