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念願かなって鳥海山登山報告(その4)         弁護士 石川順子

2024.3.7

37年前から、「いつかは鳥海山」(2236m)と憧れ続けてきた。とうとう山頂直下の大物忌神社の御室小屋に到着。一泊後、朝日によってできた鳥海山の影が日本海に映る「影鳥海」を見る幸運に恵まれた。そして2日目の登山が始まった。

本当の山頂は、新山(標高2236m)。ここは岩を積み上げたようなピークだ。前日の登りでかなり体力を使ってしまい、また、2度も転んだことから、今の自分の体力では無理と断念した。

目標を変え、2番目に高い七高山(標高2229.2m)を目指すことにした。七高山は、鳥海山の外輪山の中で一番高いピークである。そこに行くには、山小屋を出ていったん谷におりて雪渓を渡り、カルデラの縁まで立ちはだかる壁を登らなければならない。二男はご来光を見にあさいちで一度のぼりおりしてきたから大丈夫だろう。と思ったのは甘かった。・・・

証拠写真を撮る余裕などまったくなかったので、どなたか写真をネットに載せていないかなぁと探してみたところ、kaoriさんによる「鳥海山登山 外輪山~七高山 来ちゃいなよ。ゆざまち」という記事がありました。その中に外輪山と山小屋の間の崖の写真があります。ほかにも鳥海山の写真がたくさんあります。ご覧ください。
https://yuzamachi.com/yamaasobi/mt-tayori/hokotate_choukaizan/2023/07/27/

これも登山道なのか。ほとんど岩だけ。大きい岩どうしの間にある小さな石は、登りやすいように運んできて敷いて下さったのではないかと思う。大きい岩しかなくてとっかかりがほとんどないところにはチェーンがある。登山前の計画の時、チェーンがあるらしいことはどこかに書いてあったが、これまでチェーンで恐怖を覚えたことはなかった。「登れるようにできているのだからそんなに怖いはずがない」という言葉が頭に存在していたわけではないが、無自覚の過信があった。今回、主観的には90度の直立した壁だ。片手でチェーンをつかみ、もう片方の手を岩の出っ張りにかけて、大きな岩にしがみつくような体勢で、足を載せるところを探って体重を移動する。二男が、「こっちに左足を載せてから、右足の先をそっちの凹みにいれて」などと、登る手順を教えてくれる。足先がずれたら、手がすべったら、一巻の終わりだ。今度こそ、「死ぬかも」という恐怖が頭をよぎり心臓がドキドキしてくる。
小学生の頃、父と一緒にテレビの日曜洋画劇場かなにかで見た山岳映画を思い出した。どこかの雪山に飛行機が墜落して、ふもとに住んでいる父と息子が2人で捜索に行く物語だ。息子はひねくれていて、急な岩場で父が予め教えた足を進める位置と順序にさからって登り、転落するというシーンが衝撃的だった。結局息子は、たしかクレバスに落ちて・・・、父は・・・という話だった。映画のタイトルは覚えていない。もう一度見てみたいと思い、いろいろなキーワードで検索したが見つからなかった。
ダンベルで鍛えていたはずなのに、チェーンを握って体を持ち上げるのに力が足りない気がして、おじけづく。怖くて景色など観られない。深呼吸をして、慎重に、しかし、神経を集中して瞬発力をため、よいしょっと一歩ずつだ。「あとどのくらい?」「もう少し」を繰り返し、励ましてもらいながら、やっとカルデラの縁まで登り詰めた。ふーっ。こんなに大変だとは思わなかった。昨日七五三掛の分岐で、外輪山コースを選んだら、この道を下らなければならなかった。ここを下るのは登るよりずっと怖い。千蛇谷コースを選んでよかった。七五三掛で教えてくれたガイドさんありがとう!!

一休みしてから七高山へ。これはそれほど難なく登頂。七高山から北側に鳥海山のピーク新山が見える。国土地理院が出した「火山土地条件図『鳥海山』解説書」の中に、「新山溶岩ドームは、西暦 1801 年に形成された安山岩質の溶岩ドームである」と書かれている。あのゴツゴツした姿は、約220年前にできたまだ新しい火山の姿なのだ。自分の体力と相談して新山には登らないことにしたが、それでよいと思えた。

←七高山

←新山

ぐるっと一周の景色を眺めた。「あの山は何?」「月山かな」などと楽しんだ後、下山の道をたどり始めた。左右両方の景色が素晴らしい。今日は朝から天気がよく気温も上がりそうだ。水分は山小屋でいただいた麦茶のみ。大事に少しずつ飲んでいこう。山頂から下りの順で、行者岳、伏拝岳、文殊岳とピークがあり、三寒四温にちなんでいうと、四下り三登りといった感じで、下りと登りを繰り返しながら徐々に下っていく。途中、何カ所か金属製のはしごがあった。下りのはしごというのも結構怖い。慎重に、慎重に。

ふと、左足先に違和感を感じた。見ると、なんと靴底の先が剥がれて、蛇の口のように開いているではないか。あちゃー。あのカルデラの崖の登りでかなり靴に負担がかかったのだろう。登山計画中、靴も点検した。靴底が剥がれることがあるから注意するようにとはよく言われているので、ハガレのないことは一応確認していた。ただ、万が一のことも考え、紐を数本持っていったのが不幸中の幸いといえるだろう。2本の紐を靴底の溝に入れて甲のところで縛った。これで何とか下ろう。しかし、紐が切れるかもしれないので、どうしてもかばいがちになる。元気よく歩く気になれない。おそるおそるのあゆみになってしまう。後日、靴を買い換えるときに、山岳ガイドもしているという店員さんから、靴底の寿命は5年。使わなくても貼り替えるか買い換えることを教えられた。左足に気を遣いながら、カルデラの縁を下った。右側下方に昨日登ってきた千蛇谷が見える。「ここでおしゃべりしたら谷を歩いている人に聞こえちゃうかもね。」

七五三掛に着く前に二男から、よんどころない事情とかで「急いで御浜小屋に行きたいから、七五三掛に着いたら先に行くよ。そこからならひとりでも大丈夫でしょ。御浜小屋で待ってるから」と言われた。

最後の難関、七五三掛への下り(登りの時に30人の登山ツアー客がおりてきていた)を無事こなし、二男はひとりで歩行を速めた。二男の後ろ姿が見え隠れしながら小さくなっていく。ずいぶん先の開けた草の斜面を登るのが見えたが、そのころには点ほどになっていた。もう、この登山を最後に、私も子離れしなくちゃいけないんだ、などとセンチな気分になった。

七五三掛で一休みしていたら、「テント泊でしたか?」とひとりの若い女性から声をかけられた。そうか、山小屋泊用に買った例のマットをリュックに縛り付けているので、テント泊と思われたのだ。「いえいえ、実は」と大物忌神社の御室小屋一泊の経緯を説明した。私は話しかけてもらったのがつい嬉しくて、朝スマホで撮った影鳥海の写真を見せた。その女性は「へーっ、こんな風に見えるんですね。よかったですね。」と話に付き合ってくれた。そして、昨日の私と同じ質問、千蛇谷コースと外輪山コースの様子やどちらがいいか、をきかれたので、昨日のガイドさんからきいた話と、実際に私が抱いた感想をお話しした。
山が好きな女同士、初めて出会って、もう二度と会わないであろう人との山情報の会話。ひとり同士だからよけいに楽しい。

(続く)

弁護士 石川順子