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「虎に翼」によせて(その3)                弁護士 石川順子

「虎に翼」によせて(その3)                弁護士 石川順子

「虎に翼」楽しんでいますか?

前回のブログは、物品返還請求訴訟の判決言渡直前だった。下された判決は、返還を命じるもので、妻の勝訴!

その理由として裁判官から説明されたのが、「権利の濫用は許されない」という法理である。これは,平たく言うと、法律の文言どおりに事件に当てはめると、とんでもない、非常識な、誰も認めがたい結果になるようなときに、最終手段として裁判所が使う法理である。法律に書いてあるからと言っても、そのとおりにするのはかえって、おかしなことになる場合に、裁判所が法律の文言どおり適用しないこともある、そういうことを知っていることはよいことだと思う。

ただ、当事者の代理人となる弁護士の立場でいうと、なんでもかんでも権利の濫用を主張すれば相手方の権利主張を封じることができるというものではない。その前に、法律の文言において、解釈によりなんとか依頼者様の権利を守ることができないか、それを工夫するのがまず先である。書生の優三の台詞「法律とは、自分なりの解釈を得ていくもの」はそのことだと思う。

私も、前々回のブログで、それを何とかひねり出そうとしたのだった。ひねり出した解釈を裁判官が採用しない場合に備えて、予備的に主張するのが「権利の濫用法理」という位置づけになる。

学生のゼミで議論したりするといい題材だった。

今週は、寅子とその仲間たちが結束を固めた。そして、来週はいよいよ本科で男子学生と共に学ぶことになる。またまた波乱がありそう。目が離せない。

*権利の濫用という法理が、日本の裁判で初めて認められたのは、当時の大審院(いまでいう最高裁判所にあたる)が下した宇奈月温泉引湯管事件の判決である。これについては、ネット上でもいろいろな方が説明しているので検索していただきたい。

私はブラタモリの大ファンである(この3月でシリーズとしてはいったん終了となったのは残念至極)。ブラタモリで、いわゆるくろよんダム(黒部ダム・黒部川第4発電所)の建設前にその下流に次々と発電所ができていった跡をたどった回があり、その電源開発にともなって宇奈月温泉が発展した話がでてきた。その時期におきたトラブルに大審院判決がくだったのだろう。

法学部にはいって、初めて「権利の濫用」という法理を学んだときに紹介された事件の現場を、ブラタモリで見られたことにはとても感慨深いものがあった。

弁護士 石川順子