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福島原発事故をめぐる津島訴訟の控訴審判決 弁護士白井劍

福島原発事故をめぐる津島訴訟の控訴審判決 弁護士白井劍

 

津島地区は福島県浪江町の西半分を占めます。地区全体が山間部にあります。浪江町と合併する前は津島村というひとつの村でした。福島第一原発からは30キロ以上離れ、万一の事故が起きても安全と思われていました。ところが、原発事故のために放射性物質に高濃度に汚染され人の住めない土地になりました。事故4日後に村から全住民に避難するよう連絡がなされました。誰もみな、とるものもとりあえず避難しました。避難先は全国各地に及びます。地区全体がまるごと帰還困難区域に指定されました。事故の4年後、「何もしなければ廃村棄民の憂き目にあう」という危機感から、住民の約半数が訴訟にたちあがりました。「国と東電は汚したふるさと津島をきれいにして返せ」をメインの請求として訴訟をたたかってきました。2026年10月16日に仙台高裁で控訴審判決を迎えました。

まったくひどい判決でした。原発被害者に対する悪意に満ちた、冷酷非道な判決と評してよいと思います。

第1に国の責任を認めませんでした(1審の福島地裁郡山支部は認めた)。

第2に「汚したものはきれいにして返せ」(原状回復請求)を認めませんでした。

第3に損害賠償についても第1審原告の約4分の1を切り捨てました。

16日金曜の判決直後には、法廷で読み上げられた「判決要旨」だけをもとに、ごく簡単なコメントを暫定的に出しました。その日の夜から翌日にかけて弁護団は判決を読み込みました。17日土曜に泊まり込みの原告団弁護団合同会議をもって判決の検討分析をおこないました。これをとりまとめて原告団と弁護団の合同の「声明案」をわたしが起案しました。18日日曜、声明案は臨時原告団総会で承認されて「声明」となり、その日夕刻からおこなわれた記者会見で公表されました。

下記にその「声明」を示します。判決に対する原告団と弁護団の評価のエッセンスです。

 

「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」仙台高裁判決に関する原告団・弁護団声明

1 はじめに

2026年10月16日、仙台高等裁判所において、標記訴訟の控訴審判決が言い渡された。標記訴訟は、2011年3月に発生した東京電力福島第一原発事故の被害者である、福島県双葉郡浪江町津島地区住民の約半数が、国と東電に対して提起した訴訟の控訴審である。本件原発事故を発生させた国・東電の責任を追及し、放射性物質に高度に汚染された津島地区を加害者らの責任で「きれいにして返せ」と求めて、2015年9月の提訴以来11年、2021年8月の控訴以来5年にわたって訴訟をたたかってきた。

本判決は、国の責任を認めず、津島地区住民たちの悲願である「ふるさとをきれいにして返せ」(原状回復請求)を認めなかった。しかも、損害賠償請求についても被害者である第1審原告らの約4分の1を切り捨てた。冷酷非道な不当判決であるといわざるをえない。わたしたちは満腔の怒りをもって上告することを決意した。

2 国の責任について

津島訴訟第1審の福島地裁郡山支部でわたしたちは国の責任を認める判決を勝ち取った。ところが、その後2022年6月17日最高裁判決が国の責任を否定した。それ以降の各地裁判所の判決はすべて国の責任を否定している。わたしたちは国の規制権限不行使という不作為だけではなく、原発設置に発する作為の違法をも追及してきた。そして国が米国から、容易に過酷事故を防止することのできる対策(「B.5.b」)に関する情報提供を2度も受けたにもかかわらず、これを関係機関等とも共有することなく握りつぶしてしまったことに焦点を当ててその責任を追及してきた。原発には極めて高度の安全性が求められる。ひとたび過酷事故が起きたときの被害はとてつもなく甚大で深刻である。そのハザードの甚大さにかんがみて過酷事故を回避する万全の対策が施されなければならない。

しかし、本判決は「著しく合理性を欠くとはいえない」などとして国の責任を否定した。国民の安全確保に背を向けた判決であると断ぜざるをえない。

3 原状回復請求について

本判決は、原状回復請求についても、結論ありきで悩みなく、形式論理でもって排斥してしまった。判決は、「放射性物質は、その性質上ひとたび大気中に放出されると、そのコントロールが現実的に不可能であって(中略)現時点においては、もはや一審被告東電が、放射性物質という妨害原因をその支配領域に収めているとはいえず、同様に一審被告国が放射性物質を支配領域に収めているともいえない」として、原状回復を認めなかった。しかし、これは、放射能汚染が大規模で深刻であればあるほど加害者は責任を免れるという理不尽な論法であって、とうてい認められるものではない。そもそも津島地区はその大部分が森林であり、そのまた大部分は国有林である。まさに国が放射性物質を支配領域に収めているのであって、その一事をみても判決の不当は明白である。

4 損害賠償について

  本判決は、過去に東電が賠償をおこなった際の書類に添付された、ごく細かい文字でかかれた数々の文章のなかの、片言隻語をわざわざ抜き出して、「慰謝料の精算」が合意されているなどと強弁し、ルールに従って律儀に誠実に賠償手続をおこなってきた被害者らに、あたかも精算義務があるかのごとくに話を捻じ曲げたうえで、「世帯単位での精算」をすべきと、およそ法律論とはいえない理屈をもちだして、第1審原告らの4分の1の請求を「棄却」とした。

5 決意

原発事故によって汚染された地域の除染と復興再生は、被害住民の意向を無視して進められてはならない。被害住民の意向を反映した除染・復興再生をするためには、国・東電・自治体に被害住民を加えた4者による継続的協議(4者協議)が不可欠である。4者協議を基軸とした基本解決要求の実現は、第1審原告らを含む津島地区住民たちの共通の切実な願いである。

  裁判長は、判決言い渡しのあと、「付言」として、「国及び浪江町は、津島住民の思いを丁寧に汲み取り、津島の除染と復興に取り組むよう切に望む」と述べた。不当判決を言い渡した裁判長が最後の最後に示した、せめてもの良心であったというべきである。判決書に記載されたわけではないとはいえ、この「付言」が、傍聴席が埋め尽くされた公開の法廷において、あらかじめ準備された紙を読み上げて述べられたことは、事実としての重みをもつといわねばならない。不当判決を言い渡した裁判所でさえも、3月9日結審にあたって和解を勧告し、6月8日に第1審原告らが提示した基本解決要求の内実をもつ和解案を軸とした和解成立のための働きかけを国と東電に対しておこない、そして、判決言い渡し後にまた、この付言を述べた。この事実は、基本解決要求が法廷での争いをこえて、早期に実現されなければならない内実をもつものであることを物語っている。

  わたしたちは、不当判決に屈することなく、4者協議を基軸とした基本解決要求の実現をめざして断固奮闘する決意である。

                2026年10月18日

                     福島原発事故津島被害者原告団

                     福島原発事故津島被害者弁護団