第1 共同親権導入の趣旨と子の利益最優先原則
1 共同親権の導入 改正法819条
2026年4月の民法改正により、離婚後の親権について「共同親権」が新たに選択肢として導入されました。改正民法819条は、離婚後の親権者を父母双方または父母の一方とすることを認め、家庭裁判所は子の利益を基準として親権者を定めることとしています(同条7項)。
2 子供の利益優先の原則 改正法818条 ソロモン王の寓話
この改正の中心にあるのは、子の利益を最優先するという原則です。
改正法818条1項は「両親は成年に達しない子について、その子について、その子の利益のために行使しなければならない」との規定を新設しました。
旧法818条1項が「成年に達しない子は父母の親権に服する」と親の立場を強調していたのと明確に異なります。
子供の利益優先の原則は、古代の寓話「ソロモン王の裁き」を想起させます。二人の女性が一人の子をめぐって争った際、ソロモン王は「子を二つに分ける」と提案しました。真の母は「どうか子を殺さないで、相手に渡してほしい」と懇願し、王は子の命を守ろうとした者こそ真の母であると判断しました。
この寓話が示すのは、子どもの幸福を守ろうとする意思こそが最も尊重されるべき基準であるという普遍的な原則であり、改正法を見るならば、現代の家庭裁判所の判断枠組みもこの視点に沿って構築されるべきと考えます。
第2 家庭裁判所が共同親権の可否を判断する際に重視する要素
1 DV・虐待の有無(民法819条7項)
(1) 共同親権を排除する法定事由
共同親権の可否を判断する際に、家庭裁判所が最も重視するのがDV・虐待の有無です。
民法819条7項は、次の場合に家庭裁判所が単独親権を定めなければならないと規定しています。
ア 父母の一方が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき
イ 父母が共同して親権を行うことが困難と認められるとき
ここでいう「害悪」には、身体的暴力だけでなく、精神的DV、面前DV、ネグレクト等も含まれます。
DVが認められる場合、共同親権は子の安全を害するため、必ず排除されます。
2 父母の協力可能性(民法819条7項)
(1) 意思決定が停滞しないか
共同親権は、父母が協力して子の重要事項を決定することが前提です。裁判所は次の点を重視します。
ア 連絡・相談が適切に行われているか
イ 虚言・重大な約束違反がないか
ウ 相手への人格否定・威圧的言動がないか
エ 合意形成が現実的に可能か
父母間の葛藤が強くても、最低限の協力が可能であれば共同親権は排除されません。しかし、協議が著しく困難であれば、子の利益を害すると判断され単独親権となります。
3 父母と子の関係(監護実績)
(1) 監護実績の評価
改正後は「親権者争い」よりも「監護実績」が重視される傾向が強まっています。裁判所は次の点を評価します。
ア 子との関わり方
イ 別居後の親子交流の状況
ウ 学校・医療・生活の世話の実績
エ 婚姻費用の支払い状況
日常的に子を支えてきた実績は、子の利益に直結するため、裁判所はこれを重視します。
4 父母間の関係(暴力・威圧・妨害の有無)
(1) 協議の前提としての関係性
共同親権は父母間の協議が前提であるため、次の事情がある場合は共同親権が困難と判断されます。
ア 暴力・威圧的言動
イ 監護妨害(無断連れ去り等)
ウ 過度な干渉
エ 手続濫用(申立て乱発)
父母間の関係悪化は、子の生活の安定を損なうため、共同親権の障害となります。
5 親権の行使方法(民法824条の2)
(1) 共同行使の原則
民法824条の2は、共同親権下の親権行使について次のように定めています。
ア 原則として父母が共同して行う
イ ただし、日常の監護教育に関する行為は監護者が単独で行う
ウ 急迫の事情がある場合は単独行使が可能
進学、重大な医療、転居などは重要事項として父母の合意が必要です。
6 監護者の指定(民法766条・824条の3)
(1) 共同親権と監護者の役割
共同親権であっても、家庭裁判所は父母の一方を監護者として指定できます。監護者は、子の居所・教育・職業など日常の監護教育を単独で行うことができます。
7 養育費の法定化(民法766条の3・308条の2)
(1) 子の生活保障の強化
離婚時に取り決めがなくても、法定養育費を請求できる制度が導入され、さらに養育費には先取特権が付与されました。これにより、子の生活の安定が強化されています。
第3 まとめ(子の利益最優先の原則)
共同親権導入後、家庭裁判所が重視するのは次の5点です。
1 DV・虐待の有無
2 父母の協力可能性
3 父母と子の関係(監護実績)
4 父母間の関係(暴力・威圧・妨害)
5 子の利益の総合判断
共同親権は、父母双方が子の成長を支えるための制度ですが、その適否を判断する基準は常に「子の利益」です。私も共同親権が問題になる事案を担当するときは、依頼者ととともに子供の利益、幸福を最優先に考え、場合によっては相手方とも協力し、よりよき解決のために尽力します。
実務では父母双方の感情が強く対立する場面も少なくありません。しかし子供の利益という一点を共有できれば解決の糸口がみえてくるのではないかと考えます。
以上

