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念願かなって鳥海山登山報告(その5・最終回)         弁護士 石川順子

2024.3.10

37年前から、「いつかは鳥海山」と憧れ続けてきた。新山(2236m)は断念したが、2日目に2番目のピーク七高山(2229m)の登頂を果たし、下山だ。

外輪山の縁を下りてきて、外輪山コースと千蛇谷コースの分岐点である七五三掛(しめかけ)に到着。そこで初めて出会った若い女性とおしゃべりし、お互いに無事を祈って別れ、また歩き出した。先が剥がれた靴底はなんとか紐で保たれている。難所はもうないといっても、それなりに上り下りはある。外輪山の下りを終えた安心感で気が緩んだせいか、疲れがどっと襲ってきた。とにかく、足がすぐに疲れる。歩幅が狭くなるし、動きも遅い。とぼとぼといった感じになってきた。後ろからすぐにほかの登山者に追い抜かれる。小さいリュックで走り降りて、走り去っていった女性もいた。私とそんなに年は違わなさそう。凄い!後ろに人の気配を感じたらすぐに道を譲るようになった。下からの登山者何人もともすれ違った。山では、出会った人に「こんにちは」と声をかけるのがマナーと言われている。私も、マナーとしてそうしてきた。しかし、単なるマナーではなかったその意味を今回しみじみ思った。

私の「高齢女性ひとりとぼとぼ歩き」は、ほかの方から見たらかなり頼りなさそうに見えたのだろう。数人の方の、「こんにちは」の後に言葉が続いた。うれしかった。七五三掛の若い女性と同じく、テント泊でした?という(たぶん「高齢女性がひとりで?」と意外に思っての)質問が一番多く、「靴底剥がれちゃったんですね、気をつけて」というのもあったし、高校生くらいの息子さんと2人で登ってきた中学校の社会の先生風(勝手な想像)の男性からは、やはりテント泊かという質問とともに、「おひとりですか、水持ってますか」と、心配のお言葉をいただいた。「大丈夫です」「もってます(麦茶だけど)」「ご心配くださりありがとうございます。」と元気に(のつもりで)答えた。山登りの人って、みんなやさしい!! 私に声をかけてくださった皆様、本当にありがとうございました。
「こんにちは」は、何か困っていそうな人に声をかけるきっかけをつくる言葉なのだ。声を掛け合うのがあたりまえという習慣が浸透していれば、その後に、すんなりと心配の言葉を続けられる。そのような意味があったのだ。
「もし、今後、困っていそうな人がいたら、私もそうしよう」、まだ山を下りきらないで困っていそうに見られる分際で、そんなことを思った。

昼頃に御浜小屋到着。二男が待っていてくれた。鳥海湖と下界を眺めながら(二男撮影)、昨日の朝ふもとのコンビニで買ってきたおにぎりを昼食に食べる。昨日はインスタント味噌汁を作ってくれた。今日は予定では、豆をひいてコーヒーを入れてくれるつもりだったそうだが、既にお伝えしたように、水分は麦茶しかない。豆とコーヒーミルまで持ってきてくれたのに、残念だった。

ここから鉾立口の駐車場まであと3時間くらい。ほぼ下りだが、日差しは強く、昨日より気温は高い。二男は、登山口の売店で買い物があると言って、これまた先に行ってしまう。まぁ、仕方ない。前泊含め2泊3日もべったり母親に付き添わせるのは気の毒だ。ここまでくれば大丈夫か、と思いきや、そうは問屋は卸してくれなかった。登山口ですでに低木しかなくすぐに森林限界だから、登山道にはほとんど日陰がない。山を下ってくれば気温は上がる。まして、日中一番暑い時間帯だ。じりじり照りつける太陽。タオルを首に掛けて額をぬぐう。もう、格好など構っていられない。何度も日照りの下で休憩する。麦茶も残り少なくなってきた。足の疲れに加え、リュックを背負う肩にも重みが食い込み、肩と背負いベルトとの間に両手をいれて持ち上げ気味にしないと辛い。もう少しましなリュックを買っていればよかったとぼやく。そこに、ひゅーっとトンボが飛んできた。オニヤンマくんだよね。スマホで調べる。やっぱりオニヤンマだ。くたびれた高齢女性の登山者がとぼとぼ歩いているので慰めに来てくれたのだと解釈し、ちょっと元気が出たので草にとまったところを撮影した。

途中、登山道からちょっと引っ込んだ日陰を見つけ、そこで休み。一口分だけのこして麦茶を飲んだ。二男から電話がかかってきた。鉾立口について、売店で買い物をしているとのこと、私の知人等へのお土産と水の購入を頼んだ。「あとどのくらいかかりそう?」「30分くらい」と答えたが、実際は50分くらいかかった。太ももの前面が疲労で突っ張っている。足が上がりにくい。これほど歩くのに苦労するとは思っていなかった。
やっと15時過ぎに鉾立口到着。その瞬間、私は草地に足を投げ出してへたり込んだ。

まずは、死なずに下りてこられたことに胸をなでおろし、次の瞬間、帰りの列車までの時間がにわかに気になりだした。計画では、あと1時間半は早く下りてくることになっていて、レンタカーで奈曽の白滝と鳥海温泉保養センターあぽん西浜に寄るつもりだった。しかし、18時17分酒田発の特急いなほ14号に乗らなければならない。これを逃すと今日中には帰れない(明日は仕事だ)。滝はあきらめ、あぽん西浜の温泉で汗を流して帰ることにした。山を下りてすぐ温泉に入れるのはうれしい。ほとんどカラスの行水だったが、さっぱりして酒田への道をレンタカーで走った(二男の運転)。

ときおり車の窓から鳥海山の方をふりかえる。あそこに登ったんだよね。あの外輪山の縁を歩いたんだよね。鳥海山さん、ありがとう。登山中にかかわったすべての方々、ありがとう。最強のサポーター二男くん、ありがとう。お陰様で無事に下りてこられました。遠ざかりながら、登った鳥海山を眺められる幸せにひたった。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。(了)

弁護士 石川順子